背景と課題
ドライバー不足の深刻化により物流機能が危機的状況に
昨今の物流業界では過酷な労働やドライバー不足の問題が深刻化しています。これらの問題を解決するためには物流業者だけでなく荷主業者も協力して物流効率の改善に取り組む必要があります。
トラックドライバーの人材不足
長時間労働や低賃金など物流業界に対する世間のイメージはネガティブであり、トラックドライバーの人数は平成7年の98万人をピークに減少が続いています。とくに若手ドライバーの担い手不足は深刻であり、平均年齢も高齢化の一途をたどっています。 一方でAmazonや楽天に代表されるEコマース市場の拡大にともない宅配便のとり扱い個数は年々増加しており、今後トラック業界の人材不足はますます悪化していくことが予想されています。
「運ばせる」から「運んでもらう」時代へ
このような社会背景を受けて、いままでは荷主に対して弱い立場だった物流業者ですが、今後は強気な姿勢で業務交渉を行うことが予想されています。事実、2017年に大手宅配業者ヤマト運輸は荷主に対して運賃の値上げや総量規制(繁忙期の取り扱い個数を制限)に踏みきりました。運びづらい荷物は運んでもらえなくなる。物流業者に配慮した配送計画の立案は荷主企業の責務になってきています。
大手建材メーカーX社様の取組み
大手建材メーカーX社様(以下、X社様)は物流効率の改善にむけた取組みについて検討をはじめました。しかしアイデアはあっても実際どの程度の効果があるのか見積もりが難しく、実証実験には踏み切れていないという状態でした。
物流リードタイム延長による積載効率の改善
X社様がとくに関心を持たれていた施策は「物流リードタイムの延長」でした。現状では完成した製品は倉庫に到着した翌日に即発送する「翌日発送のルール」で運用されていたのですが、この方法ではどうしても積載率の低いトラックが出てしまいます。物流リードタイムに幅を持たせることにより可能な限り荷物をまとめて配送して積載率を改善しようというのが狙いでした。
施策実行には関係者たちの理解・協力が必要不可欠
たしかに効果がありそうな本施策ですが「具体的にどの程度の効果があるのか」と聞かれると机上の見積もりには限界があります。また、配送を見送った荷物が倉庫内に滞留して在庫数が増加するリスクも考えられます。このように施策実行の際には、前もって利害関係者たちにメリット・デメリットを説明して納得してもらう必要がありますが、定量的なエビデンスなしに彼らの理解を得るのことは難しいでしょう。
ソリューション
シミュレーション分析により施策効果を事前検証
配送計画策定システム『ALPS Route』を使用してシミュレーション分析を行い、物流リードタイムの延長が物流効率に与える影響を定量的に評価しました。
配送計画策定システム『ALPS Route』
弊社が提供する配送計画策定システム『ALPS Route』は、貨物の特性など様々な要素を考慮した配送計画を策定する業務支援システムです。貨物や顧客、ドライバーなどの様々な要素を考慮し、車両編成から配送先の訪問順序まで、配送計画のすべてをすばやく立案します。
施策あり/なしの場合をシミュレーションで再現
実際の貨物データやトラックデータを使用してリードタイムを延長した場合/しなかった場合の2ケースについて仮想的な配送計画を立案しました。これら2ケースについてトラックの使用台数、総走行距離(時間)、在庫数などの指標を比較することで、施策の導入によって物流効率がどの程度改善されるのか定量的に分析することが可能になりました。
施策効果の定量的な評価が可能に
以上のシミュレーション分析により、次の結果を得ることができました。
物流コストの削減量を定量的に評価
複数の荷物をまとめて配送することでトラックの積載率が向上したため、ひと月あたりに必要なトラック台数を12台(-4.2%)削減できることがわかりました。また、拘束時間が13時間を超える長時間労働のドライバーが36人から10人と大幅に改善できることがわかりました。
倉庫内に滞留する在庫数の分析
物流リードタイムの延長により倉庫内の在庫が増加することが予想されましたが、在庫増加率は高々数%程度と試算されました。特定の日に集中して増加するといった現象もおこらなかったため、倉庫内が在庫であふれることはありませんでした。このことから在庫管理費用の増加は最小限の許容範囲内であることがわかります。
その後の展開
荷主と物流業者、二人三脚で労働環境の改善へ
以上の分析結果をふまえて関係者たちへの交渉を行ったところ、無事に理解・協力を得られることになりました。本格的な実証実験も開始されて概ねシミュレーション通りの成果が得られています。
現場作業員の声「残業が減った」
リードタイム延長の恩恵は物流効率の改善にとどまりません。物流業者からは「配送計画の立案に十分な時間をかけられるようになったため、従来よりも効率のよい配送計画を作成できるようになった」「納期を守るために深夜残業や早朝出勤する必要がなくなり心理的な負担が軽くなった」といった声も挙がり評判は上々です。
さらなる物流効率の改善にむけて
今回のプロジェクトがきっかけとなり、X社様は物流効率の改善にむけた取り組みを加速させています。物流サテライト施設の新設、配送ルート・積み合わせの最適化、地域や季節による施策効果の変動…。様々なアイデアが検討されて、シミュレーションによって効果が検証されています。今後も継続的に労働環境の改善に取り組むことで、物流業者との良好な関係を維持していきます。
使用プロダクト
ALPS Route
お客様にとっての"良い配送計画"を、素早く、簡単に ALPS Routeは、貨物の特性など様々な要素を考慮した配送計画を策定するエンジンです。貨物や顧客、ドライバなどの様々な要素を考慮し、車両編成から配送先の訪問順序まで […]
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